陳舜臣アジア文藝館 NEWS  


父と司馬遼太郎さんと神戸の怪しい夜
小学生のころ北野町の家に司馬さんがよく遊びにきていた。
僕はまだ小学生で、この白髪のおじさんは父の飲み友だちとしか認識していなかった。
言葉が悪いのですが「白髪(しらが)のおっちゃん」と、僕と妹は呼んでいました。

いつも父の書斎でボソボソと怪しい話しをしていたことを憶えてます。

いまも憶えていることがあって
僕がパパたちにイチゴを持って行くのですが、ドアの前でぜんぶこぼしてしまったのです。
緊張しすぎてこけたのだと思います。

奥から母が飛んできて、僕を叱咤します。
すると、白髪のおじさんが母を制して「だいじょうぶ、イチゴは洗うとたべれるから怒らないで」と母に言った。
僕はその場で、このおっちゃんは僕の味方だと思ったのです。
父の顔をみると、酒を飲みながら他人事のように笑っているだけであった。

そのあと、ふたりはすっかり闇に暮れた神戸の街へと消えて
父が帰ってくるのは牛乳配達や新聞配達のお兄ちゃんと同じ頃であった。
 
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桃源亭綺譚
父が亡くなって1年があっというまに過ぎた。
文藝館に運び込んだおびただしい資料の山。
私の自宅に運び込んだ父と母のノートと日記類。
ひとりでは、整理できないぐらいの量である、

さいきん「桃源亭綺譚」と記された日記風のノートが見つかった。
桃源亭というのは父の処女作「枯草の根」の主人公である陶展文の中華料理店の名前である。

ノートの中身を見ると
父が描いた絵もあり、不思議な料理レシピが書いてあった。
父が厨房にたったことは一度も見たことがなかったが、怪しげなレシピが存在していたことに驚いた。
母がつくる料理を横でこっそり見ていたのだろうか?
それは、私も、妹も記憶にはない。
台湾時代にメモをしていたレシピなのかもしれません。
それを小説の主人公、陶展文に作らせようとしていたのかも知れない。

父の残した「桃源亭綺譚」に残されたレシピを作ってみようと思った。
ほとんどが酒菜である、
なんだか父と陶展文が、僕がつくった料理にぶつぶつ文句を言いながら談笑している声が聞こえてきた。
 
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